医療脱毛で使われるのは、YAG、アレキサンドライト、ダイオード、3つのレーザーと医療IPLの4種類。それぞれ異なる波長を持ち、向いている毛質・肌質も異なります。
これらの違いについて知っておくと、スムーズなクリニック選びができるほか、副作用などのリスクから身を守ることにもつながります。
そこでこの記事では、それぞれに期待できる効果の違いと、脱毛を受ける前に知っておきたいメリット・デメリットについてまとめました。
脱毛の基礎を網羅的に解説していますので、ぜひお役立てください。
YAG、アレキサンドライト、ダイオードはそれぞれ波長や得意な毛質が違う
医療レーザー脱毛で使用されるレーザーは、YAG、アレキサンドライト、ダイオードの3種類です。
そのうち、ダイオードレーザーには1回1回照射するショット式と、スピーディーな照射が可能な蓄熱式の2つがあるので、厳密には4種類あります。
まずはそれぞれの仕様や効果について見てみましょう。
アレキサンドライトレーザー | YAGレーザー | ダイオードレーザー(HR/SHR) | |
代表機種 | ジェントルレーズPRO | ジェントルヤグPRO | ライトシェアデザイア |
波長 | 755nm | 1,064nm | 810/940nm |
進達性 | × 低い | ◎ 高い | ○ YAGには劣る |
メラニン選択性 | ◎ 高い | × 低い | ○ アレキサンドライトには劣る |
効果が発揮されやすい毛質 | 普通~太い毛 | 産毛~太い毛 | 産毛~太い毛 |
効果が発揮されにくい毛質 | ・産毛 ・白髪 | 白髪 | 白髪 |
効果が発揮されやすい部位 | ・ワキ ・前腕 ・すね | 全身 | 全身 |
効果が発揮されにくい部位 | ・背中 ・上腕 ・ヒゲ | ー | ー |
日焼け肌や色黒肌への適応 | × | ◎ | ◎ |
硬毛化した部位への適応 | × | ◎ | ◎ |
「これらのレーザーのうち、どのレーザーが1番効果的か」という議論の答えは出ていません(2022年4月時点)。
どのレーザーも短所と長所を持ち合わせているため、アレキサンドライト+YAGなど2つの波長を搭載したマシンも増えています。
これにより、1人ひとりの毛の太さや生え方、毛根の深さ、肌色などに合わせた施術が可能です。
また、ダイオードレーザーは、アレキサンドライトとYAGの中間的な性能であり、熱破壊式と蓄熱式の切り替えが可能なものが主流です。
どのレーザーを使用するかは、クリニックの方針や医師のセンス、毛質や肌質、部位などさまざまな要素で決まるので、それぞれの違いについて覚えておきましょう。
熱破壊式(HR)と蓄熱式(SHR)の効果の優位性は証明されていない
「熱破壊式と蓄熱式、どちらの効果が高いのか」と気になる方もいるでしょう。
実は、熱破壊式と蓄熱式の効果の差に関するエビデンスは少なく、どちらに優位性があるのか判断することは困難です。
ただし、仕様や痛みなどを比較することはできるので、ちょっと見てみましょう。
熱破壊式 | 蓄熱式 | |
出力方法 | 高出力のレーザーを1回ずつ照射する | 低出力のレーザーを連続で照射する |
照射時間 | 1秒間に1~2回程度 | 1秒間に10回程度 |
ターゲット部位 | 毛包・毛根などの周辺組織 | 毛包・毛根などの周辺組織 |
痛み | 痛みを感じやすい | 痛みを感じにくい |
熱破壊式と蓄熱式の違いは出力方法と照射時間にあり、ターゲット部位は同じです。
「蓄熱式は効果が低い」「バルジ領域にアプローチする」といった解説を見かけることもありますが、残念ながら誤情報です。
なお、「熱破壊式と比べ、蓄熱式の方が毛髪減少率が優れている」と示されたデータもあります。このデータが全てではないので、「蓄熱式<熱破壊式」と判断するのは早計だと言えます。
医療IPL脱毛では、医療レーザー脱毛と同等の効果が期待できる
次に、医療レーザー脱毛と医療IPL脱毛の違いについて見てみましょう。
医療レーザー脱毛 | 医療IPL脱毛 | |
エネルギー | レーザー | IPL |
エビデンス | ◎ 有効性について示されたデータが多い | ○ 有効性について示されたデータがやや少ない |
メカニズム | エネルギーが毛のメラニンに吸収され、発生した熱で毛を生産する部位が破壊。毛が生えなくなる | エネルギーが毛のメラニンに吸収され、発生した熱で毛を生産する部位が破壊。毛が生えなくなる |
効果 | ◎ | ○ |
日本では医療脱毛が選ばれる機会が多く、「IPL脱毛=サロン脱毛」というイメージがあることから、IPL脱毛が劣ると感じてしまう方もいるかもしれません。
ただ、米国ではIPL脱毛の人気も高く、「レーザーと同等の効果が得られている」という報告もあるようです。
もちろん、家庭用やサロン用のIPLマシンより、医療機器であるIPLの方が優れた効果に期待できることは言うまでもありません。
あえて効果が期待できる順で言うと、「家庭用脱毛器≦サロン脱毛<医療IPL脱毛≦医療レーザー脱毛」といった感じでしょう。
アレキサンドライトレーザーのメリット・デメリット
アレキサンドライトレーザーの特徴とメリットは、以下の通りです。
- 755nmの波長を持つフラッシュ式のデバイス
- メラニンに吸収されやすく、低めのフルエンスでアプローチ可能
- 18~24mmと比較的大口径であり、毎秒2発程度の照射が可能な
- ショット式でありながら、施術の効率にも期待できる
代表機種としては、米国シネロン・キャンデラ社の「ジェントルレーズプロ」です。
日本で薬事承認を受けているマシンも多く、アレキサンドライトレーザーを積極的に採用しているクリニック数も多いです。
ただしアレキサンドライトレーザーにも以下のようなデメリットがあります。
- 波長が短いため深達性に乏しく、男性のヒゲなど毛根が深いところにある部位には向かない
- VIOなど色素沈着した皮膚には適用しないため、表皮焼けが起きやすい
- 硬毛化が起きてしまうケースや、 硬毛化が起きた後の処置に向かないことがある
アレキサンドライトレーザーの使用時に硬毛化が起きたという報告も多いので、覚えておきましょう。
YAGレーザー脱毛のメリット・デメリット
ヤグレーザー(Nd:YAGレーザー)の特徴とメリットは、以下の通りです。
- 1,064nmの波長を持つショット式のデバイス
- 波長が長いため深達性に優れている
- 色素沈着があっても表皮焼けが起きにくい
- 肌が特に黒い人種にはYAGレーザーしか使えないと言われるほど
- 難易度の高い部位にも適応しやすい
一方でYAGレーザーには以下のようなデメリットもあります。
- メラニンに吸収されにくいため、出力を上げなければいけない
- 高出力でアプローチすることで、強烈な痛みを覚えやすい
- YAGレーザーの光は真皮裂傷を起こしやすく、傷跡や赤みなどが残る可能性もある
脱毛が難しい部位への効果が期待できる反面、痛みや副作用が起きやすい点は大きなデメリットでしょう。
ダイオードレーザーのメリット・デメリット
ダイオードレーザーの特徴とメリットは以下の通りです。
- 810nmや940nmの波長を持つデバイス
- その名の通りダイオード(半導体)の技術を応用している
- ショット式と蓄熱式の使い分けができる
- 照射面積が大きいので、均一的なアプローチが可能
- 進達性が高く、薄い毛~剛毛、硬毛化した部位にも適している
まさに「アレキサンドライトレーザーとYAGレーザーのいいとこ取り」という性能を持つため、導入するクリニックも増加傾向にあります。
ダイオードレーザーのデメリットとしては、以下のことが挙げられます。
- ハンドピースが大きなものもあり、顔やVIOなどの施術に向かない
- テクニックや知識のない技術者が使うことで、フルエンスが下がってしまうケースもある
とはいえ過度な痛みや副作用、合併症などが引き起こされるケースにも配慮できるので、近年注目されています。
当院でもダイオードレーザーに着目しており、日本人の肌に適した「ヴィーナスワン」を開発・使用しています。
医療IPLのメリット・デメリット
医療IPL(光脱毛)の特徴とメリットは、以下の通りです。
- 複数の波長の光を同時に照射できるデバイス
- 医療レーザーと同様、毛のメラニンに吸収されて熱を放ち、毛根を破壊する効果が期待できる
- 特定の波長の光をカットすることで、安全性も高まる
家庭用やサロン用の光美容機とは違い、出力をうまく調整することで高い脱毛効果に期待できます。
一方、以下の点はデメリットだと言えるでしょう。
- 経年劣化すると出力が低下するので、適切に操作できるクリニックを選ぶ必要がある
- 硬毛化が起きてしまうケースや、 硬毛化が起きた後の処置に向かないことがある
- 資格や技術、知識を持たない人が使用すれば、火傷などにもつながる
医療IPLに関する知識や技術、実績を持つクリニックを選ぶのであれば、安全性への過度な心配はいらないでしょう。
ただ、サロン脱毛の場合は要注意。医療従事者ではない一般人がIPLのエネルギーを使用しているということもあり、「何度通っても効果がない」とがっかりしたり、健康被害を受けたりする可能性もあります。
医療脱毛をするなら効果や特性を踏まえた上でマシンを選ぼう
- 医療脱毛で使われるのは、YAG、アレキサンドライト、ダイオード、3つのレーザーとIPL脱毛の4種類
- どのデバイスにも長所と短所があるので、「どのレーザーが1番優れているのか」など、優位性がわかる研究データはない
- アレキサンドライト+YAGなど2つ以上の波長が切替えられるマシンも増えており、毛の太さや生え方、毛根の深さ、肌色などに合わせた施術に期待できる
もちろん1人ひとりの症例に合わせることが前提ですが、クリニックの方針や医師のセンスによって「どのマシンをメインで使うのか」が異なります。
クリニック選びで失敗しないためにも、ぜひこの記事で紹介した基本知識を覚えていってくださいね。